札幌7時00分発の釧路行き特急スーパーおおぞら1号は283系6両編成。最後尾の6号車自由席車は空いていた。札幌発の時点で1両に5~6人、平日木曜日の朝一番ならこんなものなのかもしれない。
 
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  札幌駅で発車を待つFURICO283。

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  閑散期の平日だからか、乗客は少なかった。

 今朝は6時に起きて6時半に北18条のホテルを出た。今日は歩いて札幌に向かう。ここで7時21分発の「オホーツク1号」に乗って時計回りに道東を攻めようかなとも思ったが、当初の予定通り「スーパーおおぞら1号」に乗った。苗穂運転所を見ながら函館本線と別れる。
市街は雪は降っていなかったが暫くしてまた吹雪き出した。南千歳で千歳線と別れて石勝線に入る。朝の早さで眠気が出たので、ここで少しだけ寝た。目が覚めると列車は石勝線の高架区間を走っていた。途中区間で除雪作業を行っていたらしく、トマム着は約12分遅れの8時45分頃になるらしい。そしてその後も断続的に15分の前後の遅れが見込まれるというが、今回は別に急ぐ旅ではないので多少の遅れは気にしないことにする。駅周辺に星野のリゾート施設が建ち並ぶトマムで観光客らが中国語を話しながら乗ってきた。春節休みも終わっただろうに、私が言うのも何だが、良い御身分だと思う。そして今日から3日間私は道内の各地で彼らを見掛けることになる。


 一面の雪景色の中を列車は行く。帯広でややまとまった乗車があったが自由席車はそこまで混んでいない。冬の道内の特急列車にしては珍しい。道東の雪原をひた走り、右手に太平洋の水平線が広がると終点の釧路は近い。空も何時の間にか晴れていた。しかし私はここで次に乗る花咲線の快速列車が運休するということを知る。しかし先を急ぐ旅ではないし、まあなんとかなるだろう。根室方面へ向かう乗客は釧路駅で駅係員に申し出るよう放送があった。終点の釧路には13分遅れの11時13分に到着した。
 
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  ラストスパートは太平洋を臨んで。

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  釧路に到着。2番線の快速「ノサップ」は急遽厚岸行きに変更。
 
 駅で集めた情報によると花咲線は雪害のため厚岸~根室間で列車の運転を見合わせていて、釧路11時13分発の根室行き快速「ノサップ」は途中の厚岸止まりとなるらしい。厚岸以降に向かう乗客は駅係員に申し出よとのことで、釧路駅の改札脇に5人の乗客が集められた。根室へ商談に向かうというビジネスマン二人組と、同じく仕事で根室へ向かう男性、茶内まで行くというお母さん、私。この5名はJRがチャーターしたタクシー2台に分かれて根室駅へ向かうことになった。急ぐ旅でもないし、ここは素直にドライブを楽しもうと思う。私は根室へ向かう男性、お母さんとパーティーを組み、タクシーの助手席に座った。ここから根室駅まで約2時間のドライブだ。なお個人でタクシーをチャーターするとタクシー代は約3万円とのことだった。

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  空はこんなに青いのに。

 タクシーは釧路の市街を抜け、暫く花咲線に沿って走る。ちょうど乗る予定だった快速「ノサップ」がゆっくりとタクシーを追い抜いていった。先程から急ぐ旅ではないと言っているが一つ懸念材料があって、根室駅から納沙布岬へ向かうバスが13時45分発で、今から根室まで2時間10分以内に着かないとバスに乗ることが出来ない。さすがに運転手さんに急いでとは言えないので、ここはプロのドライバーに全てを委ねようと思う。次の手はバスに間に合わなかった時に考えれば良いのだ。釧路から根室まで一直線に伸びる国道44号線。根室まで100kmの標識が見えた。タクシーが時速60~70kmで走っているとして、ギリギリで間に合う計算だ。運転手さんはがっちりとハンドルを握って仕事に集中している。ここは全てを任せよう。右手に厚岸湾が見えた。厚岸の駅前を「ノサップ」の時刻から15分遅れで通過する。時刻表上の「ノサップ」根室到着は13時22分なので、ここはギリギリ間に合う計算だ。しばらく花咲線の線路と並走する。両側は一面の針葉樹。あとは標識で根室までの距離と現在の時刻を確認する。ふと根室交通の釧路行きバス特急「ねむろ号」とすれ違った。

 後部座席のお母さんが降りる茶内駅が近づいてきた。お母さんが「国道沿いのセイコーマートの前で降ろして貰えますか?」と訪ねたが、運転手さんは「茶内駅まで行きます」と応えた。あくまで乗客は私達ではなくJR北海道ということなのか。茶内駅がある浜中町は『ルパン三世』で知られる漫画家「モンキー・パンチ」氏の故郷で、駅前にもルパン三世の看板が立っている。12時40分、茶内着。鉄道より22分も遅れていて、これでは根室駅到着はギリギリだ。運転手さんが「お手洗いは大丈夫ですか?」と聞いてきたが生憎そんな余裕はない。国道44号線に戻り、あとは根室まで一直線だ。雪に包まれた根釧平野の一本道をタクシーが走る。この先花咲線の線路は太平洋側にぐっと迫り出し、根室の市街では右からぐるっと回り込むかたちで終着駅に入る。一方国道はこの区間を一直線にショートカットしており、これは普通に間に合うかもしれない。道路標識の距離、タクシーのスピードメーターと現在時刻を交互ににらめっこする。タクシーは根室の市街に入った。時計は10分前の13時35分、懸念は渋滞と信号機だが道路は極めてスムーズだ。あと5分。前方に根室駅右折の標識が見えた。この信号に掛からなければ13時45分発のバスに間に合う。タクシーは駅前広場に入り駅舎の前に停車した。間に合った!

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  思いがけず2時間のドライブ。お世話になったタクシー。

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  岬へ向かう路線バス。

 根室駅前13時45分発の納沙布岬行きの路線バスに乗る。乗客は私一人。窓口で往復切符を買うと1割引きだった。待合室ではお婆さんが午睡中。売店は体調不良につき休業の札を掲げて店仕舞いしている。お昼の食糧を何処かで買いたいが、生憎と北海道最果ての街にそんなものはなかった。バスは根室の市街で老人を二人乗せ、一人は町外れで、そしてもう一人は歯舞という集落で降りていった。後はさいはての岬へ続く一本道をひたすら走る。外は晴れているが風が強く、防雪柵の真下から時折白い吹雪が吹き付ける。沿道の交通安全の幟も風を受けて大きくはためいている。20年も前になろうか、始めて納沙布岬へ来た時は夏で、辺り一面の霧の中「四島を返せ!」の看板が道路沿いのあちこちに立っていた。当時は銃を持ったソ連兵が四島を踏みつける棘々しい看板だったが、今はアザラシのイラストが描かれた真新しい看板に入れ替わっている。根室半島のさいはて珸瑤瑁(ごようまい)の集落を過ぎ、14時29分、バスは納沙布岬のバス停に到着した。

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  ローカルバスはさいはてを目指す。

 バスを降りるともの凄い強風が吹き付けてきた。言うまでもないが、今この最果ての岬に居るのは私一人である。後は岬の資料館の職員が数名だけ。バス停に併設された資料館で暖を取りつつ北方領土の歴史や史料を見させてもらった。珸瑤瑁(ごようまい)水道を挟んで目の前に横たわる島、それぞれ水晶島(すいしょうじま)、勇留島(ゆりとう)、秋勇留島(あきゆりとう)というらしい。その手前ここから僅か3.7kmの場所に古ぼけた灯台が肉眼でも見える。これが根室半島に一番近い北方領土の貝殻島(かいがらじま)。

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  やって来た!本土最東端、納沙布岬。

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  珸瑤瑁水道を挟んで秋勇留島。

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  国後の島影。

 これら歯舞群島と色丹島は地政学的に根室半島の延長線上にある。戦前は人が住み漁業を営んでいたと言うが、今は国境を守る兵士以外に住人は居ない。帰りのバスは今から2時間半後の午後5時。資料館で小一時間にもわたる史料映像を見た後でも時間はたっぷりある。強風の中コートのフードをしっかり被り、お隣の北方館・望郷の家へ移動する。夏季は土産物屋や食堂も店を開けるそうだがこの天気ではどこもやっていない。

 北方館には北方領土を臨む展望台があり、無料の望遠鏡で北方領土を視察することが出来る。3.7km先にある貝殻島の灯台が肉眼でもくっきり見える。この灯台は戦前に日本が建てたものらしい。望遠鏡で真向かいの水晶島を覗けば国境警備隊の建物や、ロシアが実効支配を正当化するために建てた正教会の教会が確認できた。こんなに近くにある島なのに決して行くことが出来ない。資料館を出るとまた強風が吹き付けてくる。四島の架け橋モニュメントの向こうには国後島の山々がうっすらと見えている。凍てつく寒さと強風の中、頑張って納沙布岬の灯台まで行ってみた。一歩一歩足を踏みしめ、雪に足を取られて転ばないように。岬の白い灯台。裏手に回ると正しくそこがニッポンの最果てだった。

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  これ以上は行けない、此処がニッポンのさいはて

 北方四島を巡る歴史は十分に学び知ることが出来たが、戦争に負けて取られた島を取り返すなんて、またロシアと戦争やって勝つしか方法が無いじゃないか。かつてソ連が我が国にしたように、今現在島に住んでいるロシア人を全員追い出して、また札幌や東京から人を移住させれば良いのだろうか。辺り一面は白と灰色の世界、この岬には私一人しか居ない。もの凄い風と波の音、もうこの先には絶対に進めない。ニッポンの最果てに私一人。そしてこの先は、私の行けないニッポン。

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  誰もいない岬の先端。ニッポンで一番早い夕日が沈む。

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  根室駅へ戻ります。

 日がどっぷりと暮れた納沙布岬から根室行きのバスで引き返す。帰りのバスも私一人。根室の市街に入ってようやく乗客が一人乗ってきた。一応帰りの列車は19時00分発の釧路行きだがまあ走ってはくれないだろう。根室駅に着くと案の定ホワイトボードに全列車終日運休と書かれていた。詰所の駅職員が明日の始発も走らないと言っている。まあ今回は急ぐ旅じゃない。このまま根室に泊まればいいだけだ。市内の宿数軒に電話して駅近く一泊5千円の宿に決めた。昨日の宿より1500円も高い割には、極めて貧相なホテルだった。