川湯温泉はアイヌ語の「セセキ(熱い)ペ(川)」に由来する温泉街である。6時に目覚め、朝風呂に入ってから宿を出た。時刻は朝の7時。これから川湯温泉駅まで30分ほど歩いて7時44分発の始発列車に乗る。今日も朝から天気が良く、そして幾分温かい。それでも気温は氷点下のはずだが、風がないので暖かく感じる。駅へと続く一本道、正面の硫黄山からもくもくと白い煙が上がっている。この大地の力が川湯温泉の強酸性の温泉をつくる。

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  駅まで徒歩30分、針葉樹の林の中をひたすら歩きます。
 
 川湯温泉7時44分発の網走行き普通列車はキハ54系2両編成。こんな朝から観光客の姿も見える。峠を越えて旧釧路支庁から旧網走支庁に入り、緑で昨日乗った神出鬼没の「ルパン号」と交換した。一面の雪原の中を列車は往く。知床斜里でクラブツーリズムのバッジを付けたシニア客が大量に乗り込んだ。釧網本線はここ知床斜里から網走までの間オホーツク海沿いを走り、季節を問わず人気のスポットとなっている。恐らく途中の北浜駅で下車して観光バスに乗り継ぐのであろう。そして間もなく右手に流氷のオホーツク海が広がった。網走では4日前の1月31日に平年より10日遅く流氷初日となり、そのまま一昨日の2日に接岸した。今回はこの光景を見るために北海道へやってきた。線路は暫く海から離れるが、北浜の手前でまた海が広がる。9時02分着。そして私はこの駅で列車を降りた。
 
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  流氷とオホーツクの海。

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  北浜駅に到着。クラツリ厨たちがぞろぞろと降りてきて、早足で観光バスに乗り込む。
 
 クラブツーリズムのバッジを付けたシニア客が大型バスに乗り込んでしまうと駅舎に静寂が訪れる。ここはオホーツク海に一番近い駅。旅行会社のツアーに組み込まれるほど有名な駅で、そして私が北海道で一番好きな駅である。20歳の最長片道切符の旅ではこの駅で一晩野宿した。駅舎には旅人が残した切符や定期券が所狭しと貼られている。いつものベンチに腰掛け、一夜を過ごした二十歳の夜を思い出した。ここに来れば私はいつでも20歳の自分に戻ることが出来る。あれから私も世の中も大きく変わってしまったが、オホーツクの海と波の音は変わらない。短い時間の滞在だったが、今回も駅舎に名刺を残し次に来た列車に乗り込んだ。

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  我が青春の北浜駅舎。
 
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  駅舎には旅人が残した無数の名刺が貼られている。

 北浜10時10分発の網走行きは「流氷物語2号」の列車名がついているが、実際は何の変哲もないキハ54系の2両編成だった。申し訳程度のラッピングと車内に流氷の写真が貼ってある。10時25分、網走着。これから流氷観光砕氷船「おーろら」に乗りに行く。駅を出ると丁度網走港行きのバスが出るところだった。バスは観光客で混んでいた。10分ほどで「おーろら」の港がある道の駅流氷街道に到着。駐車場には大型観光バスが群れをなし、道の駅は何かのイベントでも開催されているかの如く大混雑。そして飛び交う中国語、大半は中国からの観光客だ。人混みをかき分け11時00分発の砕氷船の乗船券を購入し船に乗り込んだ。流氷接岸を受けて初の週末ということで大盛況。本日の「おーろら」は
2台運行とのことで、私は後続の「おーろら2」に乗った。

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  網走駅に到着。これより流氷を見に行きます。

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  nice boat.
 
 船内の座席は全て中国人とツアー客に取られてしまったので、私は寒風吹き荒ぶデッキに立って船の出航を待った。網走は雪がちらついている。暫く港を航行し、沖合に浮かぶ流氷帯を見つけると砕氷船はその中に突っ込んでいく。そして一面の白い世界が広がる。オホーツクの界面を埋め尽くす冬の使者こと流氷。向こうに網走の能取岬が見える。

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  まずは流氷の幼生、蓮葉(はすは)氷がお出迎え。

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  砕氷船が流氷帯に突っ込んだ!

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  流氷の向こうに能取(のとろ)岬。

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  ガリガリと音を立て、流氷を砕きながら往く。 
 
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  流氷の上にイヌワシの姿。

 1時間の流氷クルーズを終えて網走の港に帰ってきた。道の駅でお昼御飯を食べて、再びバスで網走駅へと向かう。網走駅の改札口には大型スーツケースの大群が長蛇の列を作っていた。列の最後尾が今にも駅舎から溢れそうだ。13時26分発の札幌行き特急「オホーツク6号」を待つ列だが、外国人ならジャパンレールパスを持っているのではなかろうか。ともあれ、予定より早く改札が始まり、私もフリーきっぷを見せて最後の列車に乗り込んだ。

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  網走駅に戻ってきた。

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  網走駅が人大杉状態な件について。
 
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  では、札幌に戻って、新千歳空港から成田に帰ります。

 網走13時26分発の札幌行き特急「オホーツク6号」はキハ185系6両編成。先頭の1号車と2号車の半室が自由席で、適当に2号車の座席に座った。指定席のカバーには「Reserved Seat」のカバーが掛けられている。車内を埋め尽くすのは団体の中国人で、大型のスーツケースが網棚は勿論デッキや通路にまで置かれている。つくづく北海道の経済は彼らが回しているんだなと思う。雪を見たテンションからか中国人たちが大声で話すので車内は騒がしい。そして子供が泣きわめく。車窓には青空が広がり降り積もった雪が眩しい。網走湖の湖畔を走る。

 あれほど大声を出していた中国人たちが急に黙り込んでしまった。全員大きな口を空けて午眠を貪っている。慣れない異国の地で疲れてしまったのだろう。物音一つしない車内にキハ185のエンジン音が響く。ふと前の座席の男の子と目があってしまった。さっきはあれほど泣き叫んでいたのに、母親が眠り込むと同時に大人しくなってしまった。澄んだ瞳でずっとこちらを見つめてくる。ウインクを返すと恥ずかしいのか座席に隠れてしまった。特急「オホーツク6号」は留辺蘂を過ぎて常紋越えに掛かる。キハ185のエンジン音が一際高くなってくる。窓の外には針葉樹が広がる。