内房特快とは総武本線・内房線の東京~館山間に1往復運転されている名無しの特別快速である。平成27年ダイヤ改正で内房線の特急「さざなみ」が事実上廃止されたので、その穴を埋める目的で平日の1往復だけ設定された。なお土休日は新宿始発の臨時特急「新宿さざなみ1号」として特別快速のダイヤをほぼ踏襲する。だがこの特別快速は今年春のダイヤ改正で運転休止が決定しており、僅か2年の命であった。そんな平日限定の特別快速に大回り乗車のルールを利用して乗ってきた。

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  特急でないのにこちらに表示されている。

 東京8時02分発の特別快速館山行きはE217系15両編成。「横須賀・総武快速線」と同じく「スカ帯」を纏った11両編成と付属の4両編成で運転される。東京寄り4両の付属編成が終点の館山まで行き、前の11両は途中の木更津止まりとなる。特急「さざなみ」の代替として誕生した経緯もあって、東京駅地下コンコースの電光掲示板では「特急」の欄に掲示される。総武2番線ホームも銚子方面への特急「しおさい」が発車する優等ホームだ。

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  東京止まりの普通列車として入線。
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  特別快速の表示

 津田沼からの快速列車がそのまま折り返し館山へ向かうので、入線から発車までの時間が5分間しかなく、 その間にグリーン車の清掃も行われる。だが通勤ラッシュとは逆方向なので降車客が捌ければ特に問題はない。館山まで行くロングシートの付属4両編成最後尾に乗車した。車内はロングシートの端が埋まる程度だが、リュックを背負ったおじさんおばさんの団体や、俗に言う葬式鉄も居る。東京駅地下ホームを出発して地下区間を行く。新日本橋、馬喰町を通過し、地上へ出て東京スカイツリーを見ながら錦糸町着。平日の通勤時間帯だけあって乗ってくる人も多いが、ここでも座席にはまだ余裕があった。

 総武線の複々線区間を往く。反対列車は快速、緩行ともに満員だが、ラッシュと逆方向の乗客はスマホ撫でるか二度寝かで平和そのものだ。江戸川を渡って千葉県に入る。次の市川では先行する快速列車を追い抜いた。途中停車駅は船橋、津田沼の二駅だけで、東京千葉間を僅か35分で駆け抜けた。千葉でややまとまった降車がある。次の蘇我では京葉線と外房線が別れる。ホームでは男性が余命幾ばくもない特別快速にカメラを向けていた。

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  江戸川鉄橋を渡る。

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  千葉到着。
 
 この特別快速が2年前の平成27年ダイヤ改正で廃止された「さざなみ1号」の代替列車であることは先に述べたが、東京湾アクアライン開業後東京から房総方面は高速バスの独壇場となり、現在JRは完全に白旗を上げている。特急「さざなみ」も今や東京~君津間のホームライナー的な需要しか存在せず、早朝に上り、夕方から下りが数本運転されるのみだ。 この特別快速もやはりレゾンデートルを失っていた。せめて車両をクロスシートにして、土休日を中心に「ホリデー快速」的な運用にすればまだ解る。正直平日に4両ロングシートの館山行きはないだろう。

 蘇我から先は臨時特急「新宿さざなみ」と停車駅を同じくする。車窓右手には京葉工業地帯の煙突群が続く。五井で小湊鉄道と接続し、つげ義春『やなぎ屋主人』の舞台となった長浦を通過する。今の長浦駅は京葉コンビナートのど真ん中で潮干狩りができるような砂浜はない。東京湾アクアラインの真下をくぐり、9時08分、木更津着。ここで前の11両を切り離し8分間停車する。木更津駅では乗客を降ろした後一旦扉を締め、前の11両が留置線に引き上げた後、後ろの4両が前方の停車位置まで移動し、再び扉が開いて乗客を乗せる。運用のことはよくわからないが、なんとも面倒くさいことをやってるものだ。

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  木更津で前の11両を切り離した。

 9時16分、4両編成の身軽な姿になって改めて木更津駅を発車。久留里線のE130系を左手に見て、次の君津でまとまった乗客を降ろし車内もだいぶ空いてきた。残るのは葬式鉄の同業者が中心。ロングシート先端の男の子はスマホの位置情報アプリ「駅メモ」に夢中だ。私の周囲にもハマっているヤングが多く、新しい汽車旅のかたちだと思う。君津から先の内房線は単線となり、ここまで来るともうすっかりローカル線だ。車窓には梅が咲き菜の花畑も見える。佐貫町を過ぎると右手に東京湾が広がる。対岸に浦賀の火力発電所が見える。浜金谷でリュックを背負ったおじさんおばさんの団体が下車した。ラストは海と菜の花畑。保田、岩井、富浦と停車し、10時10分、特別快速は終点の館山に到着。ホームには菜の花がきれいに咲いている。房総はもうすっかり春だ。

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  ラストスパートは海を見ながら。

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  終点、館山に到着。

 この後このE217系4両編成は館山駅の留置線で夕方まで休んだ後、館山17時05分発の特別快速となって来た道を東京へ戻る。来月のダイヤ改正で特別快速が廃止された後は、同じ時刻に東京~君津間に快速列車が1本増発される。僅か2年間、内房特快はたいして世間の耳目を集めぬままダイヤから消えようとしている。 

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  房総に春が来た。