2017年大河ドラマ「おんな城主直虎」の舞台である井伊谷(いいのや)は現在の浜松市北区引佐町にあたる。かつては浜松から鉄道が延びていたが昭和38年に廃止され、現在は天竜浜名湖鉄道の金指駅が玄関口となっている。大河ドラマの放映に合わせてお隣の気賀に設置された大河ドラマ館と合わせて、天竜浜名湖鉄道に乗って井伊直虎ゆかりの地を巡ってみた。

 日曜日に名古屋で恒例の学会に出席した後、一泊して翌朝の東海道線で豊橋へ。乗り換えて2つ目の新所原駅で下車した。天竜浜名湖鉄道の駅舎で「いいね!直虎1Dayパス」を購入し、9時32分発の掛川行きに乗車した。天竜浜名湖鉄道は全線乗り通したとしても1450円。これに大河ドラマ館と龍潭寺の拝観券が付いて、遠鉄電車とバスにも乗れて2300円ならお得な切符と言えるであろう。単行のディーゼルカーは地元の用務客と大河ドラマ館目当ての旅行者でそこそこ混んでいた。

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 天浜線の始発駅、新所原駅

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 天浜線は全線が非電化単線。単行のディーゼルカーが走る。

 天竜浜名湖鉄道天浜線は東海道線に接続する新所原から浜名湖の北側を通り、遠江を縦断し掛川へ至る全長67.7Kmのローカル線である。元は戦時中に東海道線の浜名湖鉄橋が爆破された場合の迂回路としての国鉄二俣線として敷設され、現在は第三セクター鉄道の天竜浜名湖鉄道天浜線となり単行のディーゼルカーが走る。沿線の桜はまだ咲いていないが今日は天気も良くて温かい。列車は東名高速の高架橋を見ながら浜名湖の北端を掠め、10時10分気賀着。国の登録文化財に指定されている古風な駅舎には井伊の赤備えが施されていた。もっとも赤備えは直虎が後見人となる井伊直政の成人後のシンボルで、直虎の時代にはちょっとそぐわないと思うのだが。

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 浜名湖を眺めながら。

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 気賀駅で列車を降ります


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 赤備えの気賀駅 

 「おんな城主直虎大河ドラマ館」は駅前の「みをつくし文化センター」で開催されていて、春休みだけあって平日にも関わらず観客が多い。直虎1Dayパス付属の入場券で入場し、まずは入口で写真を撮ってもらう。この写真は退館後にカードになって手渡される。確か上田の大河ドラマ館でもこうして写真を撮って貰った。館内は大河ドラマのあらすじや出演者紹介、衣装やセットの展示が主だ。昨年の真田丸大河ドラマ館は戦国時代の歴史も学べて見応えがあったが、やはり井伊直虎は一次史料が少なくそこを脚本がどう持っていくかが課題だろう。

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 大河ドラマ館となるみおつくし文化センターホール

 大河ドラマ館の隣には気賀関所のオブジェがある。気賀はかつて東海道のバイパス姫街道の宿場町として栄えた。遠州灘沿いの東海道は浜名湖の河口を渡らねばならず、また南海トラフ大津波で街道が度々被災することもあった。姫街道と国鉄二俣線がほぼ同じ理由で敷設されたことが面白い。

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 気賀関所のオブジェ

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 関所時代の建物

 大河ドラマの放映に合わせてここ気賀の大河ドラマ館と井伊谷の龍潭寺(りょうたんじ)の間にシャトルバスが走っている。こちらも直虎1Dayパスで乗車できる。龍潭寺は古くから井伊氏の菩提寺であり、大河ドラマでも井伊直虎の前の次郎法師が修行するシーンがふんだんに使われている。境内には井伊氏代々の墓もあり、直虎もこの墓地に葬られている。

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 大河ドラマでもおなじみ、龍潭寺の山門

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 龍潭寺庭園、寺はこころが落ち着く。

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  右から2つ目が直虎の、その左が直親の墓。
 
 龍潭寺の近くに井伊氏発祥の井戸がある。寛弘7(1010)年にこの井戸に幼子が現れ、初代井伊共保(ともやす)公となり井伊は代々遠江の国衆としてこの地に栄えた。戦国の世に徳川四天王の一人となる井伊直政を出し、徳川の世には幕臣として仕えた。この井戸は大河ドラマでも重要な役割を果たしている。

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 井伊家発祥の井戸、竜宮小僧が居るかも。 

 さすがに直虎の世から約450年も経ってしまえば井伊谷は浜松の外れの平凡な田舎街である。大河ドラマにも出てくる井伊氏の居館跡は完全に宅地化されていて看板が立つのみ。脇に大河ドラマ第一話で今川義元に討たれた井伊直満直義兄弟の墓がある。その後ろの山城の井伊谷城がある。頂上に登ると井伊谷と遠江平野と、そして遠くに静岡県下一の高さ212mを誇る浜松アクトタワーが見えた。

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 井伊谷でもいらすと屋が大活躍。

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 井伊谷城跡

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 現代の井伊谷と遠江を望む。

 バスで金指へ出て再び天浜線の度に旅に戻る。16時07分発の掛川行きはCAPCOMの戦国アクションゲーム『戦国BASARA』とタイアップしたラッピングトレインだった。車体には「おんな城主直虎」のメーンキャラである井伊直虎と徳川家康が描かれ、車内にも武将たちのイラストが描かれている。東海道線と比べて天浜線の車窓はのんびりしていて平和そのもの。途中駅の駅舎やホームにも味わいがある。天竜二俣駅の広い構内には転車台や扇形車庫が残っていた。

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 戦国BASARAラッピングトレイン

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 井伊直虎が描かれている。

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 車内の様子
   
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 逆光だけど、全景も撮りました。 

 終点の掛川が近づいてくる。私の先祖は井伊直虎と時を同じくしてこの辺りの小豪族であった。今川氏に忠誠を誓い、今川氏の最期では朝比奈泰朝と共に掛川城に籠城し家康の兵と戦った。井伊とは比べ物にならない小さな城の城主だったらしいが、日曜日に大河ドラマを見るたびに遠い先祖に思いを馳せている。掛川の2つ手前西掛川で私は列車を降りた。駅前に静岡県では有名な炭焼きハンバーグの店がある。土休日は家族連れを中心に混雑するというが今日は平日の夕方。美味しい食事とともにゆっくりとした時間を過ごせそうだ。今夜は掛川から再び例のきっぷの旅に戻り、深夜に東京へ帰る。

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  ※おまけ