昨夜高松市内に宿を取ったのには理由があった。市街から少し離れた住宅街のど真ん中に、手打十段うどんバカ一代というユニークな名前のうどん屋がある。以前、UPFGうどんツアーの最後の店として二階建てバスで乗り付け、既にこの日は朝5時から十軒近くのうどん店を回っていたのだが、ここで「釜バター大盛」を注文し完食した。大食いには自信があるのだ。あの味が忘れられず、今朝は夜明け前に宿を出た。

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  UPFGひとりうどんツアーEXT「手打十段うどんバカ一代」 

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  釜バター大

 この店は朝の6時から営業を開始する。店に着くと既に5~6名が開店を待っていた。土曜日の早朝でもこの人出、人気店なのだ。やがて店先に暖簾が掛けられ、入店し今日も釜バター大盛を注文する。そうこうしているうちに続々と客が入ってきて狭い店内が満員になってしまった。まだ土曜日の夜明け前だ。大きな器にどっさり入れられたさぬきうどんに、バターと香辛料、そして卵。これを頬張りながら食べる。なかなかハードな朝御飯だ。ともあれ、今日も釜バター大を完食し、最寄りの栗林駅まで歩く。ちょうど6時49分発の特急「うずしお2号」が入ってきたので、一駅だけだが特急列車に乗車して高松駅へ。ここから改めてバースデイきっぷの旅、3日目を開始する。

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  頭端式ホームに連絡船の名残を見る。朝の高松駅。

 東の空に西国の遅い夜明けが訪れた。今日のメーンは「愛ある伊予灘線」こと予讃本線旧線を2往復する観光列車「伊予灘ものがたり八幡浜編」号。一昨日高松駅のみどりの窓口で全列車の空席を調べてもらって、最後に獲った1席だ。「伊予灘ものがたり八幡浜編」号は松山駅を13時28分に発車する。今日は松山駅までバースデイきっぷの威力を活かし、色んな列車を乗り継いで向かおうと思う。

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  トップバッターは高徳本線の「うずしお1号」
 
 まずは高徳本線で徳島へ向かう。高松7時05分発の徳島行き特急「うずしお1号」はN2000系3両編成。グリーン車は連結されておらず、自由席と指定席だけのシンプルな編成である。土曜日の朝だけあって座席はパラパラとしか埋まっていない。高松駅を発車後西へ走り、左へ90度カーブし東へ方向を変え、高松の市街を琴電と並走して走る。左手には高松のシンボル屋島が居座っている。東の空には師走のか弱い朝日が昇った。旅を続けて思うのだが、真冬の早朝の、この張り詰めた静謐な空気はなんと良いものか。清少納言が言った「冬はつとめて」とはこういう景色なのだろうか。讃岐津田の先で左手に瀬戸内海が刹那見えた。海の向こうの島は小豆島だろうか。昨日の車窓は土佐の太平洋の大海原だったが、今日は讃岐の朴訥な景色が広がる。四国の車窓はこう、のんびりしていて良い。

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  讃岐のシンボル屋島。

 峠を越えて徳島県に入る。池谷で鳴門線が別れ、吉野川の鉄橋を渡り徳島の市街を高架で抜ける。8時14分、徳島着。高松徳島間74.5km、所要約1時間10分。東京からだと国府津、小山、成田空港辺りか。決して遠くはないが、隣の町という訳でもない。徳島市はアニメを利用した町おこし「マチ☆アソビ」を毎年春と秋に開催していて、街を歩けばその内容に一部触れることが出来る。毎回行きたいと思いつつも、東京から四国が遠すぎてまだ一度も訪れていない。

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  JR徳島駅前。鳴門大橋を渡る「エディ号」が停まっていた。

 JR四国の四大本線と言えば、伊予と讃岐を結ぶのが予讃本線。土佐と讃岐を結ぶのが土讃本線。高松と徳島を結ぶのが高徳本線。そして徳島と阿波池田を結ぶのが徳島本線である。全長74km。全線に渡って四国三郎こと吉野川に沿って走り、よしの川ブルーラインの愛称が付いている。優等列車は線内完結特急「剣山」が6.5往復走る。

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  2両編成のローカル特急「剣山」

 徳島9時03分発の阿波池田行き特急「剣山3号」はキハ185系2両編成。昨日の「むろと」と同じ編成だ。1号車の後方12番から15番の16席が指定席で、一番後ろの15番D席を取った。指定席には私以外にジャパンレールパスを持った外国人3人組が乗っている。日本に観光旅行に来てわざわざ四国、しかも徳島本線とは渋い所を突いている。

 徳島を出ると先程の高徳本線と同じ複線高架区間を走り、佐古で左に別れ眉山の北側を周り、ローカル特急は徳島平野に敷かれた非電化単線の鉄路を淡々と行く。通過する駅には駅舎があって駅員の姿が見え、銀杏の葉は黄色く、柿の実が残り、季節はまだ晩秋の様相を呈している。暫く経ってようやく吉野川の流れが見えてきた。日の本を二分する中央構造線に沿って、ゆっくりと、そして悠々と流れている。川向うの低い山々の向こうにさっきまで居た讃岐がある。貞光駅は列車名の由来となった剣山の登山口である。

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  四国三郎、吉野川を見ながら。
 
 吉野川の流れが急になってきた。ごつごつとした岩肌が現れる。川の向こうに山を下ってくるアンパンマン列車が小さく見えた。昨日通った土讃本線の線路で、ここでヘアピンカーブを描いて吉野川を渡り、徳島本線と合流する。バイブルを開くと岡山8時51分発の中村行き「南風3号」だと解った。土讃本線と合流し佃を通過、阿波池田の市街に入る。10時16分、2分遅れで阿波池田駅に到着。

 そして阿波池田から多度津へ出る。10時20分発の岡山行き「南風8号」は2000系3両編成。自由席も指定席も混んでおり、グリーン車も一人掛けの席は全て埋まっていた。土曜の朝に高知から本州へ向かう乗客が多いのだろう。  

 昨日、一昨日と通った道を再度行く。秘境駅の坪尻駅を三度見て、峠を下り讃岐の国へ戻る。琴平駅にはJR西日本の真っ黄色の115系普通電車が停まっていた。バイブルを開くと10時46分発の岡山行き普通列車らしい。琴平から瀬戸大橋を渡って本州へ向かう普通列車があるとは知らなかった。読み鉄としては興味深いスジだが、今回の旅は特急列車のグリーン車で豪遊するのが目的なので普通列車に乗ることはない。善通寺を過ぎると再びやって来た四国のジャンクション多度津。35分のグリーン車の旅。そして次もグリーン車で一気に松山へ向かおう。

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  「南風8号」多度津着。

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  予讃本線を一気に松山へ。

 多度津11時21分発の松山行き特急「しおかぜ7号」は8000系8両編成。先頭1号車のグリーン車の海側席に座った。昨日の予讃本線は雨の瀬戸内海だったが、本日は青空で素晴らしい景色が見られそうだ。

 早速右手に瀬戸内海が広がる。瀬戸内のしまなみと、本州がきれいに見えている。そして海上に現れる朱塗りの欄干の橋と鳥居。こどもの守り神として知られる津嶋神社で、今通過した津島ノ宮駅は毎年8月4日、5日の大祭の日のみ列車が停まる臨時駅である。観音寺を過ぎ、愛媛県に入った川之江でまた製紙工場の煙突群が見えてくる。そしてまた右手に海。山陽本線のローカル列車から見る瀬戸内海も美しいが、予讃本線のグリーン車から見る瀬戸内海もまた然り。左手には石鎚山脈。列車が海と離れると四国特有の素朴な景色が広がる。季節は師走だが今日もぽかぽか陽気、太陽が眩しい。

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  今日の瀬戸内海は快晴。しまなみを眺めながら。

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  海に突き出た、津島ノ宮。

 藤堂高虎の水城で有名な今治では高架橋からしまなみ海道が見える。今はタオルの生産と造船で栄える工業都市で、港に造船場のクレーンが並んでいる。対岸の島並は安芸の芸予諸島。ここから呉が近く、国鉄時代は予讃本線の堀江駅と呉線の仁方を結ぶ航路もあったらしい。ここで車内放送があり、これから車掌が検札を兼ねて特急券を回収するとのこと。以前四国に行ったときも松山の手前で車掌が特急券を回収しており、JR四国独自のルールらしい。もっとも前回は周遊きっぷで、今回もバースデイきっぷ。グリーン車は検札すらなく、「しおかぜ7号」のグリーン券はそのままきれいに私の手元に残った。松山の市街に入り、伊予鉄高浜線をオーバークロスすると前方にお城が見えてくる。車内にJR四国チャイムが鳴り、13時15分、特急「しおかぜ7号」は終点の松山に到着した。

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  「しおかぜ7号」松山駅に到着。

 これより本日のメーン、リゾート列車「伊予灘ものがたり号・八幡浜編」に乗車する。平成26年の夏より運転を開始し、週末を中心に予讃本線松山~伊予大洲・八幡浜間を2往復している。松山駅3番線ホームに向かうと2両編成のキハ47系気動車が停車していた。1号車「茜の章」は夕日をイメージした茜色。2号車「黄金の章」はみかんと太陽をイメージした黄金色。アテンダントのお姉さんに恭しく迎えられ、1号車の海側、一人掛けの座席に座った。緑色の座席には臙脂色のクッションが置かれていて座り心地が良い。車内は全車グリーン車指定席で、もちろんバースデイきっぷで乗車できる。

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  いよいよ、憧れの伊予灘ものがたりへ。

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  皆、思い思いの伊予灘ものがたりを想いながら。

 13時28分、駅社員に手を振られながら松山駅を発車。車内には静かなBGMが流れている。座敷席では若者のグループが騒ぎ、山側のカップル席には老若男女のカップル、そして海側のおひとり席には中年の鉄道マニア達が大人しく座っている。車窓に坊っちゃんスタジアムが現れ、アテンダントのお姉さんが車窓案内をしてくれた。ここで乗客にお弁当が配られる。こちらは予約制の4500円もする御膳弁当で、私はアテンダントのお姉さんに伊予灘ものがたり特製ビールとおつまみのじゃこ天を注文した。早速グラスに注いで一杯。両隣のマニア達がテーブルに御膳弁当を広げ、一眼で撮影。私も倣って撮影する。一人旅のマニア達は各自静かに車窓を見つめ、後方のカップルたちは和やかに談笑。座敷席からは若者たちの賑やかな笑い声が聞こえてくる。この空気がリゾート列車ぽくて良い。私は基本的には寂しがり屋の一人好き。誰かと行くか、誰かに会いに行くかの旅行が大半だけど、独りで旅するのも悪くない。今回の旅は一昨日に宇和島で嘉島氏に会っただけで基本的に一人旅だ。冬枯れの松山平野を落ち着いた車内BGMと、キハ47のエンジン音が響く。こういう列車に誰かと乗るのも、はた大勢で乗るのも悪くないが、はたして自分にはどちらが向いているのか。その答えを探すためにこうして旅を続けているのかもしれない。そんな師走の伊予灘ものがたり。

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  せっかくだから写真に撮ってみました。

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  ヒトリの海
 
 伊予市の先で新線が左へ別れていく。昭和61年3月に山間を長大トンネルで貫く新線が開通し、特急列車は全てこちらのルートを通って八幡浜、宇和島方面へ向かう。一方の伊予灘に沿って走る旧線には「愛ある伊予灘線」の愛称が付けられ、ローカル輸送と観光路線の役割を担っている。「伊予灘ものがたり」の車窓にも早速伊予灘の海が現れた。窓一面に広がる冬の伊予灘。しまなみの向こうには本州の島影が見えている。列車はスピードを落とし、海岸にへばり付くように走る。14時15分、海に最も近い駅、下灘に到着。ここで8分間停車する。青春18きっぷのポスターを始め、映画やテレビドラマのロケ地にも使われた場所で、ぜひ一度訪れてみたかった駅だ。

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海を臨む駅で。

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伊予灘ものがたりの海。

 列車を降りると正に目の前が海だ。ホームには秋桜が咲き、地元の方々が「伊予灘ものがたり」の到着に合わせて集まってくれていた。ホームで海を眺めていると列車から音楽が鳴り出した。これが下灘駅を発車する合図らしい。車内に戻り、引き続き一人席から海を眺める。道中アテンダントのお姉さんから八幡浜のちくわ、大洲の手作りパン、伊予のみかんの施しがあった。JR職員さん手作りの看板が立つ喜多灘で伊予市から大洲市に入り、次の伊予長浜で海と別れて川に沿って走る。五郎ではたぬきの着ぐるみのちみっこによるお出迎えがあった。この辺り、たぬきの伝承があるらしい。五郎、親しみやすい駅名で、かつては野口五郎のファンから人気があったという。自分の世代なら山田五郎か。

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  海と別れて。

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  ちみっこがお見送り。

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  大洲城が見えた。

 先程分かれた新線と合流し、15時14分伊予大洲着。ここで隣の席のマニアが下車した。大洲は伊予の小京都と呼ばれる城下町で、街外れにはお城が建っている。城壁から市民が旗を振って「伊予灘ものがたり」を見送ってくれた。15時26分、伊予平野着。バイブルに記載はないが、上り普通列車並びに特急「宇和海20号」と交換のため6分間停車するという。ホームでは先程の大洲の手作りパン屋さんが商売を開始し、地元民と、「伊予灘ものがたり」の乗客が集まっていた。地元の女の子「あおいちゃん」が車内を回って乗客に折り鶴を配っている。次の千丈を過ぎると八幡浜の市街に入った。沿線の民家やガソリンスタンドのスタッフ達が総出で列車に手を振ってくれている。ラストは12月らしく山下達郎の「シンデレラ・エクスプレス」が流れ、15時52分、終点の八幡浜に到着した。列車はすぐに折り返して松山行きの「伊予灘ものがたり・松山編」となる。指定席券が取れればこの列車で折り返しても良かったが、残念ながら最後までチケットがご用意されなかったので、ホームから手を振って見送った。

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  「宇和海20号」と交換

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  終点八幡浜に到着。列車はすぐに折り返し松山へ。

 八幡浜は九州への玄関口で、ここから別府へ向かう航路にはいつもお世話になっている。八幡浜16時34分発の松山行き特急「宇和海22号」はTSE3両編成だった。トランス・シコク・エクスプレスの略で、2000系気動車の試作車として平成元年に落成した世界初の振り子気動車だ。確か一編成だけ「宇和海」として走っていて、ここで出会えたのは僥倖だ。伊予大洲から新線区間に入り、「伊予灘ものがたり」が2時間半かけて辿った道を1時間足らずで爆走する。

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  TSEに初乗車。
 
 17時26分、日がどっぷり暮れた松山駅に到着。今から行くべき所は一つしかない。チンチン電車に乗り換え25分ほどで道後温泉に到着。早速坊っちゃん風呂で冷えた体を温めて、適当に入った居酒屋で晩御飯を食べた後、しばし道後の温泉街を散策する。

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  路面電車に揺られてく。

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  坊っちゃん風呂で一休み。

 土産物屋が並ぶアーケードを抜けて歓楽街に入る。綺羅びやかなストリップ劇場や風俗店のネオンが並び、横浜の関内や渋谷の道玄坂を思わせる。温泉旅館でゆっくりした後、夜はお楽しみの精進落し。昭和の時代は会社や地域の慰安旅行で賑わったと見えるが今の時代には流行らない。土曜の夜だというのに歓楽街は閑散としている。いや、夜の歓楽街なんて基本的にはこんなものだ。東京に人が多すぎるのだ。風俗街を抜けて温泉旅館ゾーンに入る。女の子二人連れが浴衣で闊歩していて、先程の風俗街とは全く違う空気が流れている。こういうところに誰かと泊まってゆっくりしたいが今回の旅は一人旅。旅館街を抜けると先程の坊っちゃん風呂の前に戻ってきてしまった。夜風が冷たく温まった体もすっかり冷えてしまった。再びアーケードを抜けて道後温泉駅へ戻り、チンチン電車で松山駅へ向かう。時刻はもう夜の8時だ。

 さて、三日間のバースデイきっぷの旅もいよいよ大団円。名残惜しいが、本州へ戻る時間がやって来た。松山20時36分発の高松行き特急「いしずち104号」は8000系5両編成。既に新幹線は終わっているので瀬戸大橋は渡らず、5両編成全てが高松駅へ向かう。そしてこの車両はアンパンマン編成だった。同じくアンパンマン編成の「宇和海28号」が到着し、同一ホーム上で「いしづち」に乗り継ぐことが出来る。

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  アンパンマンエクスプレスいしづち。

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  宇和海、いしづち、アンパンマン編成が並んだ。

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  普通車の車内はこんな感じ。
 
 5両編成の最後尾、1号車1番C席の一人掛けグリーン席に座った。アンパンマンのテーマのチャイム音が流れ、アンパンマンが車内放送を行う。このアンパンマン編成、普通車は座席からトイレ、デッキに至るまでアンパンマンづくしだが、グリーン車にはアンパンマンのイラストが控えめに一枚飾られているだけである。グリーン車には他に男の子4人組が乗っている。彼らは次の伊予北条で降りてしまった。僅か12分のグリーン車。車内改札にも応じていたのでちゃんとグリーン券を持っていたのだろう。なお100kmまでの特急グリーン料金は1280円だ。
  
 ひとりぼっちのグリーン車。特急「いしづち104号」は夜の予讃本線を走る。松山駅で買った21世紀のカストリ酒ことストロングゼロを呑みながら、3日間の旅を反芻する。とりあえず、グリーン車というのもなかなか面白い乗り物だと解った。速さに課金しても車両に課金する風習はなかったので、今までグリーン車はほとんど未知の領域だった。何と言っても空いていて静かなのが良い。なお「いしづち104号」にグリーン券を買って乗ったとしたら高松まで200km以内で2750円。2時間20分で2750円。自由席が混んでて、疲れてどうしても座りたいならありかもしれない。いやそれなら一本後の列車に乗るか。相変わらずケチくさい。そんなことを一人で考えているうちに、お酒が回ってグリーン車の座席で寝てしまった。
 
 座席の座り心地が良すぎてすっかり熟睡してしまった。目が覚めれば「いしづち104号」は終点の高松駅に到着するところだった。再びアンパンマンのテーマのチャイムが鳴り、アンパンマンが高松駅到着の放送を行う。22時58分、振り出しの高松駅に戻ってきてしまった。頭端式のホームに降りた乗客も数名。指定席も自由席もガラガラだったらしい。ホームに吹く冷たい海風で一瞬で酔いが冷めてしまった。そして私の旅の終わりも、近い。

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  いしづち104号、高松着。もう少しだけ旅は続きます。

 一昨日の早朝、神戸からのジャンボフェリー深夜便で四国に入り、ここ高松駅からバースデイきっぷの旅を開始した。今から高松港1時発のジャンボフェリー深夜便に乗れば明日の早朝に神戸に戻ることが出来るが、行きと帰りが同じでは何か味気ない。帰りは高徳本線の最終特急「うずしお33号」で徳島に出て、徳島港から和歌山港行きの南海フェリーに乗船して本州に帰る。

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  正真正銘、これが最後の列車。

 ラストランナー、高松23時20分発の徳島行き特急「うずしお33号」に乗る。2000系3両編成。車内はガラガラで、指定席はスーツ姿のおじさんと、イケメンのお姉さん、そして私だけ。23時58分着の讃岐白鳥の先で日付が変わってしまい3日間有効のバースデイきっぷの効力が切れてしまったが、青春18きっぷのルールと違ってこの列車の終着駅までは日付が変わってもそのまま乗車できる。退屈なのでバイブルを捲ってみると、四国の特急はどれも始発が早く最終も遅い。先程の予讃本線も始発は今治4時37分発、松山5時05分発や、最終は松山0時55分着、伊予西条1時16分着という遅さである。どれも岡山駅で新幹線と接続することで、本州での滞在時間を最大限に伸ばせる仕組みになっている。逆に考えればそれが四国特急の使命なのだろう。

 四国。正直今まであまり訪れたこともなく、未知の部分が多い土地。わずか3日間ではあったが、土地の方と話し、土地の空気に触れ、鉄道を乗り継ぎ駆け抜けた3日間は楽しかった。なんといっても特急グリーン車の豪華さと居住性。あまり旅にはお金をかけたくないが、たまには奮発して違う景色を見てみるのも悪くない。国鉄型のローカル列車も良いものだが、新型特急のグリーン車も悪くなかった。線路は続くよどこまでも、これだから鉄道の旅はやめられない。

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  徳島到着。ここで旅は終わった。

 0時30分、徳島着。列車を降り、改札を抜け駅舎を出ると私の後ろで駅員が扉を締めて、そのまま鍵をかけた。バースデイきっぷの効力もこの瞬間に終わってしまった。
3日間の豪遊旅行はここで終わり、此処から先はいつもの苦行旅行に戻る。南海フェリー徳島港まではここから暗い夜道を徒歩1時間。もちろんこの時間にバスなんてものはなく、タクシーに乗る余裕もない。師走の吹き荒ぶ夜風が冷たい。コートの襟首をぎゅっと掴み、深夜の街へ歩き出す。

 -完-