現在、女性の社会進出の結果、鉄道の現場でも女性運転士や女性係員を見ることが普通になった。だが一昔前は、鉄道はもっぱら男性の仕事であった。そんな中で昭和59年に開業した岩手県の第三セクター鉄道、三陸鉄道は、当初より鉄道の現業職に女性を積極的に起用していた。

 今世紀に入り、鉄道の現場にも徐々に女性が進出する過程で、全国の鉄道会社に勤務する女性をイメージした「鉄道むすめ」というコンテンツが生まれた。当初より積極的に女性を起用していた三陸鉄道にも、早速運転士の「久慈ありす」、駅係員の「釜石まな」というキャラクターが生まれた。私が彼女たちを知ったのも丁度その頃。東北旅行で三陸鉄道に乗車中、職員募集の車内広告で彼女たちと邂逅した。偶然にもその時の運転士も女性であった。

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  「釜石まな」と「久慈ありす」のポスター(我が家提供) 
  
 「久慈ありす」はその名の通り三陸鉄道起点駅の久慈と、沿線のリアス式海岸から取られたものだろう。昭和の終わりに旧国鉄の不採算路線を継承して開業したこの第三セクター鉄道は、当初から民間企業にも負けない経営努力をすることで初年度から黒字経営を成し遂げている。その理由は県内外に三陸鉄道の「ファン」を作り出すこと。鉄道むすめ「久慈ありす」の設定上の誕生日は11月3日。その日に合わせて久慈の車庫を公開する「さんてつ祭り」と、線内に貸切列車「ありすのバースデイ列車」を走らせるファンサービスを毎年行っている。今年は11月3日が土曜日で、翌日の4日は日曜日。3日のバースデイ列車に乗車し、翌日はさんてつ祭りに参加する。以前より気になっていたこのイベントに、今年ようやく足を運ぶことが出来た。

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 「久慈駅にやってきました」

 私は前夜に東京を発つ夜行バス「岩手きずな号」で久慈に入った。7年ぶり(確か震災の翌年だった)に訪れた久慈駅前は、数年前に放映されていた朝の連続ドラマ小説『あまちゃん』で埋め尽くされている。「ああ、そんなのやってたな」という感情だが、放映から5年経っても久慈の人々の宝なのだろう。駅前にはドラマの舞台を再現する「あまちゃんハウス」もある。集合時刻までまだ十分時間があるので、暫し朝の久慈の街を散策した。

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 三陸鉄道とJRの駅舎が並ぶ。

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 駅前シャッターに描かれた「あまちゃん」

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 作中にも出てきた駅前デパート 

 さて、今回集まった我々は熱心な三陸鉄道のファンである。本日のメーンである貸切列車「ありすのバースデイ列車」に乗る前に、我々でも一本貸切の臨時列車を仕立ててある。名付けて「ジークチッパイと愉快な仲間たち号」である。三陸鉄道では2時間4万円から貸切列車を走らせることが出来るため、この後我々を乗せた「ジークチッパイと愉快な仲間たち号(以下、臨時列車と呼ぶ)」は久慈~普代間を一往復することになっている。本日の主役、ジークチッパイ氏は新幹線と路線バス「スワロー号」を乗り継いで久慈駅にやって来た。主役が登場したところで、我々も久慈駅から臨時列車に乗車した。

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 地方の第三セクター鉄道は経営努力を怠ってはいけないのだ。

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 臨時列車、普代行き。
  
 久慈14時30分発の臨時列車普代行きは36系単行。三陸鉄道内を走行するオーソドックスな車両で、車内はボックスシートとロングシートが並んでいる。乗車したのは総勢十数名。各自思い思いに座席に腰を下ろし、持参したビールやお菓子をつまむ。勿論貸切列車なので常識の範囲内であれば何をしても構わない。晩秋の三陸海岸を見ながら車両はトコトコ走る。三陸鉄道北リアス線には何度も乗ったが、何かこんなに落ち着いて乗車するのは初めてかもしれない。臨時列車故に余裕を持ったスジが組まれており、途中駅でもやや長めに停車する。もちろん、車両を降りて外の景色を眺めたり、写真を撮ったりするのもここでは自由だ。

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 普段降りられないような小駅でも、ここでは自由に写真が撮れる。

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 海がきれいな堀内(ほりない)駅

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 普代でヘッドマークを交換。帰りは「はまかぜ」号に。 

 列車は小一時間で普代駅に到着した。かつての国鉄久慈線の終着駅で、丁度ここで折り返せば2時間以内に久慈駅に戻ってこれる。本日は運転士さんの好意で特製のヘッドマークまで付けてもらった。風光明媚な太平洋を眺めながらの往復2時間。これで4万円、いや、今回はジークちっぱい氏の顔を立てて半額の2万円で運行させて貰っているという。これを本日の乗車人数で割ると、なんと普通に普代までの往復切符を買う額と変わらない。なかなか面白い経験をさせてもらった。
 
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 2時間のめくるめく旅を終え、久慈駅に戻ってきました。

 本日のメーン「ありすのバースデイ列車」は久慈駅を17時30分に発車し、北アリス線の田野畑駅で折り返して20時15分に久慈駅に戻ってくる。車両は「さんりくしおさい号」に運用されるお座敷列車36R系。既に全国から予約が入り、2両編成の車内は満員御礼だという。発車30分前の17時に久慈駅に向かうと既に今夜の主役たちが集まっている。改札で名前を告げて旅行代金の6000円を支払うとお手製の乗車券とクリアファイルを頂けた。私の座席は1号車11番A席。ボックスシートの進行方向窓側席だ。とは言ってもこの時間ではもう外の景色は見られないのだが。

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 久慈駅で発車を待つ「ありすのバースデイ列車」

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 ファン手作りのデコレーションが施されている。

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 手作りの乗車券

 列車に乗り込む。既にテーブルにはお弁当が並べられ、この後お酒の提供もあるという。晩秋の三陸は日が落ちると急に冷え込むが車内の熱気は最高潮。発車と同時にお弁当を開け、乗り込んだ三陸鉄道の職員さんにワインを注いでもらう。途中の田野畑までは約1時間。外の景色は見えないが車内はジャンケン大会やトークショウで大賑わい。一人旅もいいけれど、たまにはこうして同好の士たちと列車に揺られるのも悪くない。

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 なんといってもお弁当とお酒!

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 盛り上がる車内。

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 ぬいぐるみ達も乗車

 
「ありすのバースデイ列車」は途中の田野畑駅で折り返す。ここで久慈方の先頭車に久慈ありすが描かれた特製ヘッドマークが用意された。三陸鉄道の職員さんと、先程ジャンケン大会で選ばれた乗客代表の二人で車両にヘッドマークを掲げる。ここで久慈行きの普通列車を先行させるが、「ありすのバースデイ列車」の熱気とは正反対で乗客が一人も乗っていない。元はと言えば旧国鉄が採算を理由に建設を断念した三陸縦貫鉄道。リアスの谷間の半農半漁の寒村を結ぶローカル線だ。イベント列車で県内外からのファンを集めるのも大切だが、いちばん大切なのは地元の乗客。ここ三陸も全国同様に少子高齢化と過疎化を抱えている。平成という時代が間もなく終わる今、三陸鉄道の見通しは決して明るい話ばかりではない。

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 ありすのヘッドマークがお目見え。

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 ありす!お誕生日おめでとう!

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 久慈駅に戻ってきました。
  
 約3時間のめくるめく一夜を終えて、「ありすのバースデイ列車」は久慈駅に戻ってきた。久慈20時16分発の八戸線最終列車とも接続していて、八戸から盛岡や函館辺りなら今日中に戻ることが出来る。だが我らの本命は明日のさんてつ祭り。今夜は久慈市内の宿に入り、各自バースデイ列車の二次会とした。