バスタ新宿を前夜の23時35分に出発した夜行バスはやや早めの5時10分頃、長野市内の善光寺大門に到着した。季節は立夏を過ぎたがここ信州の朝は肌寒い。とりあえず参道を通って善光寺へ向かう。早朝から地元の善男善女が散策中だ。彼らに混じって、善光寺を参拝した。

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 朝陽を浴びて。旅先での新しい一日が始まる。

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 牛に曳かれて。早朝の善光寺。

 長電の始発列車で長野に戻り、6時11分発の「はくたか591号」で糸魚川へ向かう。8号車の指定席は私一人の貸し切りだった。長野の市街を朝陽を浴びて走り、飯山、上越妙高と停車する。北陸新幹線はトンネルが多いが高架から海が見えるのが良い。僅か36分で糸魚川に到着。ここで新幹線を降りる。

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 北陸新幹線始発列車「はくたか591号」

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 五月晴れの日本海 

 ここ糸魚川で「北陸周遊乗車券」を購入する。あまり知名度が高くない乗車券だが、北陸新幹線の東京~上越妙高間を発駅とし、糸魚川~金沢間を着駅とする「えきねっとトクだ値」若しくは「モバイルSUICA特急券」を持つ乗客のみに発売される企画乗車券である。これで旧北陸本線の直江津~長浜間と支線が2500円で2日間乗り放題となる。窓口に
「えきねっとトクだ値」で来た証明となるPC画面のプリントアウトを見せるとすぐ発行してもらえた。

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 無事「北陸周遊乗車券」を購入。

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 それでは、北陸本線の旅の始まり。

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 海を見ながら。

 糸魚川7時11分発のえちご
トキメキ鉄道日本海ひすいライン、泊行きに乗車する。単行だが平日の早朝で、県境を越える列車なのでガラガラだ。糸魚川を出ると早速右手に日本海が広がる。此処は天下の険こと親不知だ。県境の駅は市振で、この先は富山県が運営する「あいの風とやま鉄道」となるが普通列車は全て泊まで乗り入れる。泊では同一ホーム上で7時48分発の金沢行きに乗り換えた。

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 泊で金沢行きに乗り換え。通勤通学客で混んでいた。

 初夏の北陸本線を征く。右手には日本海が広がり。左手には残雪の立山連峰が眺められる。日本の初夏の風物詩と言えばやはり田植え。水の入った水田が水鏡となり立山の山々を映す。駅毎に富山へ向かう通勤通学客が乗り込み2両編成の車内は混雑してきた。この混雑は富山を過ぎた後も続き、石動から先は石川県に入り路線名も「IRいしかわ鉄道」となる。9時39分、金沢着。駅で軽く朝食兼昼食を取り、10時28分発の北陸本線福井行きで更に西を目指す。左手に白山と建設中の北陸新幹線の高架橋が見える。その風景が水鏡に映り美しい。

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 立山連峰を眺めながら。

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 14時25分、小松駅に到着。 

 小松市は建設機械の製造で知られる小松製作所の企業城下町。駅東口にはコマツの社屋が建ち、隣接する工場跡地は重機の展示や資料館を併設した「こまつの杜」として開放されている。一方の西口はバスターミナルとして整備され、ここから「ハニベ線」に乗って終点のハニベ前まで向かう。B級スポットの名称が路線名になっているとはびっくりだ。小松基地が近いせいか、時折大空をF15が轟音を立てて飛ぶ。

 11時25分発のバスに乗車。平日お昼前の車内は地元の老人たちの貸切状態で、買い物帰りか、病院帰りか、皆福祉パスを見せてバスを降りていく。平日の地方路線でよく見られる光景だ。そしてバスは途中から私一人の貸し切りとなる。30分ほどで終点のハニベ前に到着。バスを降りると早速巨大な仏頭が現れた。ここが鬼も遊ぶ仏陀の里、ハニベ巌窟院である。

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 悲願!ハニベ巌窟院にやって来ました。

 ■ハニベ巌窟院公式サイト
 
http://www.hanibe.com/

 ハニベ巌窟院は昭和26年、彫塑家の都賀田勇馬氏によって開洞された。氏は明治24年に金沢に生まれ、東京美術学校(現藝大)を卒業し彫塑家としてデビューする。そして敗戦後、戦没者の慰霊と世界平和を実現するが為、石切場であったここ小松市の郊外にハニベ巌窟院を造り上げ、生涯にわたって愚直に仏像を彫り続けた。昭和56年の勇馬氏の逝去後は息子の伯馬氏が代を継ぎ、今では親子二代で造り上げた仏像を展示する一大仏教スペクタクルゾーンと化している。

 バスを降りると早速高さ15mの仏頭が出迎えてくれた。入場口は無人で、併設する土産物屋に声をかけて入場料800円を支払うシステムらしい。頂いたパンフレットによるとこの仏頭は昭和58年に建立され、目下高さ33mの大仏建立を目指して絶賛鋭意製作中という。平成の世には間に合わなかったが、令和の時代中には是非とも仏像を建立して欲しい。
 
 そんなハニベ釈迦牟尼大仏の中に入ると無数の水子地蔵が出迎えてくれる。ここハニベ巌窟院は水子供養の寺院という側面もあるようだ。水子堂と合わせてここには1万体近い水子地蔵が祀られている。手作りのよだれかけをかけられている地蔵もあり、皆大切に祀られている。それだけ子を亡くした親が居るということだ。置かれていたノートには主に母親たちの声なき声が書き込まれていた。事情は色々あったとは言え、辛い思いをしてきたんだと思う。

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 水子堂

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 お地蔵様が祀られている

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 水子地蔵が並ぶ。

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 水子堂の外にも水子地蔵が。

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 おもちゃやぬいぐるみも。

 そして暫く進む。道中にも親子二代で造り上げた統一感の無い彫刻が立ち並んでいる。お父さんの勇馬先生は芸大卒の立派な彫塑家だったらしいが、息子さんの伯馬さんは割と自由奔放な方らしく、彫刻を見るとどちらの作品か大体解るようになってきた。一つ目の洞窟、阿弥陀堂に入るとまずは阿弥陀如来、そして鎌倉仏教の開宗者たちが並ぶ。法然、親鸞、一遍、日蓮、道元、そして栄西。受験勉強で学んだことを思い出す。そんな鎌倉仏教の開宗者たちが一度に見られるとはリーズナブルだ。その奥に願皿というコーナーが有り、陶器で出来た皿に願い事を書いて箱に投げ入れると願いが叶うというものらしい。2つで100円だったので、一つは健康と、もう一つは彼女が出来ますようにと書いて投げておいた。これだけスケールの大きい寺院で願掛けしたんだからすぐに出来るだろう。

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 こんなのが境内のあちこちに飾られている。

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 まずは一つ目の洞窟。

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 まずは阿弥陀如来像。

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 どうやらここは仏像と鎌倉仏教のコーナーらしい。

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 観音像

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 いよいよメーンの洞窟へ。仁王像が建つ。

 勇馬先生の作品を展示する隆明殿を経由して、2つ目の洞窟、どうやらここがハニベ巌窟院のメーンらしい。ていうか先程より参拝客が私一人しか居ない。園内貸切状態だ。腰を屈めながら洞窟の中に入る。冷んやりとした空気が全身を包む。そして突然始まる釈迦一代記。当然ながら洞窟の中は薄暗く、作品にのみスポットライトが当てられ得も云われぬ雰囲気を醸し出している。そして洞窟内には私一人。貸切状態で親子二代の芸術を鑑賞させて頂こう。

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 釈迦一代記を見て回ります。

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 と思いきや突然、誰の胸像なんだろう?左端は会社の部長に似ている。

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 いきなり阿修羅像

 
釈迦一代記の次はインド彫刻コーナー。ヒンドゥー教の愛の神、ミトゥナ像が展示されている。これ秘宝館で見たやつだ、と一瞬で解る。先程の釈迦一代記に続いて今度はヒンドゥー教の神様を祀っているが、ここは細かいことを考えたら負けのような気がする。

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 続いてインド彫刻コーナー

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 これらは、多分二代目の作品だと思う。

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 官能的でこう、美しい。

 
そしてメーンは地獄コーナー。ここでは現世でこんな悪いことをすると、地獄でこういう目に遭わされるぞという教育的指導を持って展示されている。例えば一例目の刑罰は、現世で人を轢き殺した人が受ける刑罰らしい。最近では老人が車を暴走させて市民を轢き殺す例が多発している。現世では刑罰を受けなくても、来生では地獄に堕ちてこのような目に遭わされるのだ。

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 牛頭馬頭という門番がお出迎え。
 
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 車にはトゲが付いていて、体がバラバラになっている。怖い!
 
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 食べ物を粗末にした刑。何もここまでしなくても。

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 人を誑かした刑。何故全裸?
 
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 我が子を殺した罪。生んでは喰い喰っては生む。無限の苦しみ。
 
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 乱用の罪。き、気をつけますっ(滝汗

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 不敬罪が最高の罪?という訳で、さらし首。

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 そして最後は閻魔大王。なかなか楽しい地獄めぐりでした。

 
どの宗教に於いても、この世で悪いことをした人間は死後地獄に落ち、裁きを受けなければならない。それだけ現世で善行を積むことが目標とされている。私も一人で地獄の刑罰を眺めつつ、一方では胸に手を置いて悪事を行っていないかを考えてみた。勿論、私も人の子なので全く悪いことをしていないとは言い難い。それでもそれを自覚した上で、少しでも善行を積むことが人としての生き方だろうと。ここ加賀の町外れの寺院で一人で考えてみた。

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 屋外にも展示あり!巨大な涅槃像です。

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 ハニベ巌窟院からの帰り道。途中で白山がきれいに見えた。

 バスで小松駅に戻り、北陸本線の普通列車で芦原温泉駅へ出る。今夜は芦原温泉の旅館に宿泊するため、宿の車で駅に迎えに来てもらった。旅行の宿はいつもネットで安いビジネスホテルを予約しているが、今夜は豪盛に温泉旅館である。たまには贅沢も良いだろう。

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 建設中の北陸新幹線の高架橋。

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 宿の車で芦原温泉駅に迎えに来てもらった。

 途中、えちぜん鉄道のあわら湯のまち駅へ寄って貰った。ここで「あわら温泉宿泊フリーきっぷ」を購入する。2000円で今日明日の2日間えちぜん鉄道全線が乗り放題になるのに加え、今晩泊まる温泉旅館の宿泊料が1000円引きになるという夢のようなきっぷだ。早速部屋に案内してもらい、荷物を置いてまずは一息。まだ時刻は午後4時を廻ったところである。立夏の太陽はまだ西空高くに残り、まだまだ午後の延長線上といったところ。そしてこの手には無敵のフリーきっぷがある。では、行こうか。

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 突発的にえちぜん鉄道に飛び乗ってしまいました。

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 三国港駅に到着。まだ日は高い。

 16時50分発の三国港行きに乗り、終点の三国港へ。ここからバスで東尋坊へ向かう。時刻は夕方5時半を周り岬の土産物屋は店じまいしてしまったが、太陽はまだ西空に残っている。土産物街を抜けると目の前に日本海の大海原が広がった。ここが東尋坊。日本海に面した高さ25mの海食崖である。

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 夕日を浴びる東尋坊

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 見事な崖としか言いようがない。
 
 初夏の太陽が西空に傾き、この日本海に面した安山岩の柱状節理を照らしていく。この崖には柵はなく、歩いて先端まで行くことが可能である。勿論、足を滑らせれば一巻の終わりだ。それがまたスリルがあって良い。

 崖の先端で腰を下ろし、しばらく夕陽を見つめてみた。