平日非番の朝、いつもの時間に起きていつもの駅に向かい、そこから逆方向の列車に乗ってしまう。そんな旅がしたくなった。今日は日帰りなのでそう遠くへ行く必要もない。いつもの朝、いつもの東武北千住駅で今日は逆方向の列車に乗車した。
   
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 いつもの駅から、いつもとは違う列車に乗る。そんな非日常。

 7時19分発の東武伊勢崎線館林行き区間急行は6両編成。車内にはちらほら空席があり、そこに座らせて貰った。平日朝の首都近郊を列車は逆方向を目指して走る。反対ホームには都心へ向かう通勤客が列を作り、満員の通勤電車と頻繁にすれ違う。逆方向の列車といえどもそれなりに需要はあるようで、埼玉県内に入るといつの間にか車内は立席が出る混雑になった。『クレヨンしんちゃん』の郷こと春日部を過ぎ、東武動物公園で東武日光線が右へ別れる。次の鷲宮は『らき☆すた』の郷で、以前はよく鷲宮神社を訪れた。8時22分、羽生着。ここで列車を降りる。

 向かいホームに古びた電車が停まっている。秩父鉄道7200系、元々は東急電鉄で走っていた車両らしい。東武鉄道の改札を抜け、そのままお隣の秩父鉄道の駅舎へ向かう。ここで本日限定の企画きっぷ、「埼玉県民の日フリーきっぷ」を購入した。実は本日11月14日は埼玉県民の日。県内の小中高校は休みになり、様々なイベントが開催される。この日に合わせて県内の鉄道各社でもお得なフリーきっぷが発売され、秩父鉄道のフリーきっぷは1000円で全線に乗車できる。ここから終点の三峰口まで1070円だから往復すれば半額以下だ。今日は周りを見渡すとこのフリーきっぷを持っている乗客が多い。8時39分発の影森行きはそんな「小さな旅」の乗客たちを乗せて発車した。

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 秩父鉄道の始発駅、羽生からまずは熊谷まで向かいます。
 
 9時09分、熊谷着。人口19万人の特例市で、上越新幹線が停車する。暑い街としても知られており、岐阜県の多治見、高知県の江川崎と共に毎年暑さに凌ぎを削っている。ここで影森行きの列車を降り、終点の三峰口までSLパレオエクスプレスに乗車する。今日は埼玉県民の日で混むかなと思って発車1時間前にやって来たが、実際には30分前でも余裕だった。

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 SL乗車整理券と、埼玉県民の日フリーきっぷ
 
 発車10分前になって、三峰口方からデキ201に牽かれたパレオエクスプレスが入線してきた。全車自由席の12系客車4両編成で、SLの鼓動を間近に感じられる先頭の1号車に座った。今日は県民の日で学校が休みなのでちみっ子が多い。私のボックスにも若い父親に連れられた兄弟が座った。パレオエクスプレスは全車自由席の定員制なので、当日でも席が空いていれば乗車することができる。今回は前もって秩父鉄道のサイトから予約しておいたが、全車自由席で好きな座席に座れるのは嬉しい。これが例えばJRのSL列車だとほぼ全車指定席なので、今回のようにふらっと出かけて指定席券を取ることは難しい。進行方向窓側、テーブル席にお弁当とビールを置いて発車を待つ。最終的に始発の熊谷で1ボックスに3~4人程度、10時12分、パレオエクスプレスほぼ満席状態で発車した。

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 パレオエクスプレス入線。本日は県民の日のヘッドマーク付き。

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 車内は8割ほどの乗車率。

 熊谷駅を出発したパレオエクスプレスは暫時上越新幹線と高架と並走し、新幹線と分かれると右手に広瀬川原車両基地が現れ、秩父鉄道で活躍する電気機関車が見える。SLパレオエクスプレスを牽引するC58ー363は戦前の昭和19年に川崎車輌で製造され、東北地方で活躍した後昭和47年に引退し、吹上市の小学校の校庭で余生を送っていた。昭和63年にSLパレオエクスプレスとして復活し、現在は土休日を中心に熊谷~三峰口間を一日一往復している。なおパレオとはここ秩父地方に約2000万年前に生息していた恐竜パレオパラドキシアに由来する。等の車内放送が秩父出身の落語家、林家たい平氏の声で語られるが、何分車内はSLの旅を家族で楽しむちみっ子達で騒がしく良く聞き取れない。まあこのちみっ子たちの喧騒もパレオエクスプレスの旅の一つであろう。ということにする。

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 秩父鉄道の車両たち。

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 石灰石を積んだ貨物列車とすれ違った。
 
 パレオエクスプレスは煙を上げて、時折汽笛を鳴らしつつ晩秋の関東平野をゆっくり、のんびりと往く。
熊谷~三峰口間の56.8kmを約2時間半かけて走るものだから、表定速度は約23kmと原付以下だ。12系客車は窓が開くので思い切って窓を全開してみた。SLの煙が小春日和の空の下に流れ、ほのかな香りが窓から入ってくる。遠くに見える特徴的な山は赤城山だろう。ネギ畑に、紅く実った柿の木。沿線ではちみっ子たちがSL列車に手を降ってくれる。やはり汽車の旅は良いものだ。10時33分、武川着。ここからSL列車に乗り込んでくる乗客も多く、ほぼ全ての座席が埋まった。ふらっと気軽に乗れるSL、それがパレオエクスプレスの醍醐味なんだろう。

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 北関東のジャンクション、寄居駅にて。

 関越自動車道の高架を潜り、JR八高線と合流すると寄居である。10時52分着、7分間停車する。此処は東武東上線の終点でもあり、北関東の交通のジャンクションでもある。ここでも東武やJRから乗り換えてきたであろう乗客たちの乗車があった。ここから汽車は荒川に沿って走る。やがて荒川は長瀞と名を変え渓谷美に変化する。11時25分着の長瀞で団体客が降車しようやく車内に余裕ができた。7分間停車し後続の普通列車に先を譲る。

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 長瀞にて。ホームが人大杉でなかなか写真が撮れない。

 この先の長瀞鉄橋が秩父鉄道の白眉。SLは汽笛を大きく鳴らし高さ20mの鉄橋を渡る。ほのかな紅葉と渓谷美。真下ではSLにカメラを向ける人たちの三脚が並ぶ。ここは有名撮影地だ。

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 鉄橋を渡るパレオエクスプレス。

 秩父の市街に入る。秩父神社と夜祭で有名で、以前三峯神社に行く途中に途中下車して街歩きをしたことがある。今回はSLに乗ることが目的なので素通りするが、また機会があれば街を歩いてみたい。次の御花畑が西武秩父駅への乗換駅で、ここまで来ると車内は随分と閑散としてきた。パレオエクスプレスはこのまま終点の三峰口まで晩秋の秩父路を往く。左手には倭健命ゆかりの武甲山が見える。蒸気機関車の鼓動が高まってくる。

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 武甲山は石灰石の産地らしい。
 
 12時45分、パレオエクスプレスは終点の三峰口駅に到着した。駅前から三峯神社へ向かうバス路線があり、SLでやって来てバスに乗り換える乗客も多い。C58ー363はここ三峰口の転車台で方向を変え、最後方の4号車に連結され再び熊谷を目指す。帰りのパレオエクスプレスは14時ちょうど発。駅前で軽く昼食をいただきSLの回転作業を見守っていたら1時間強はあっと言う間だった。帰りも全車自由席なので、早めに三峰口の改札に並ぶ。往路と違って三峰口まで来た乗客は半分以下なので、あまり急がなくても窓側席に座れるだろう。

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 終点、三峰口に到着。

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 古風な三峰口駅舎。鉄道むすめも居る。

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 三峰口で発車を待つパレオエクスプレス

 帰りもパレオエクスプレスに乗って来た道を引き返す。帰路も先頭の4号車に座った。このまま終点の熊谷まで乗ってもいいし、寄居から東武東上線に乗って帰ってもいい。ゆっくり、のんびり、SL列車の旅。今日の旅は埼玉県民の日フリーきっぷのお陰でずいぶん安く仕上げることが出来た。日帰り旅行はこれくらいが丁度いい。なおパレオエクスプレスの牽引機C58ー363は来年は全般検査に入るため、次にパレオエクスプレスに乗れるのは再来年以降になるらしい。前から一度乗ってみたと思っていた列車に、今日思い立って乗ることが出来て本当に良かった。
 
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 結局、帰りも熊谷まで乗車しました。